温泉文化登録と逆行する草津温泉。答えは見つかるのか。

 

 群馬県の進める温泉文化のユネスコ登録

 近頃、日本の温泉地において、日本の温泉文化を世界に発信しようという機運が高まっている。インバウンド需要を見込んでの世界へのアピールであり、温泉(ONSEN)

という日本独特の文化、風習をもっと世界の人に知ってもらい日本に来てもらおうとする狙いもある。

 日本は言わずもがな世界でも有数の温泉大国である、ほぼ全国に温泉地があり、船室も幅広く存在する。

 その入浴の仕方も世界の入り方とは異なり独自の文化を形成してきた。

 

 そのような中、日本の温泉ユネスコ無形文化遺産に登録しようという動きが活発になっている。この無形文化遺産とはどのようなものか、そして温泉が登録されるにはどのような点が問題になるか。そのあたりを考えていこうと思う。

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日本の温泉文化をユネスコ無形文化遺産登録へ向けた日本温泉協会の取り組み | 日本温泉協会

 

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ユネスコ無形文化遺産とはどのようなものか

 

無形文化遺産の保護に関する条約」(無形文化遺産保護条約)は,グローバリゼーションの進展や社会の変容などに伴い,無形文化遺産に衰退や消滅などの脅威がもたらされるとの認識から,無形文化遺産の保護を目的として,2003年のユネスコ総会において採択された。この条約によって,世界遺産条約が対象としてきた有形の文化遺産に加え,無形文化遺産についても国際的保護を推進する枠組みが整った。条約の策定段階から積極的に関わってきた日本は,2004年にこの条約を締結した。

 

この条約においては,口承による伝統及び表現,芸能,社会的慣習,儀式及び祭礼行事,自然及び万物に関する知識及び慣習,伝統工芸技術といった無形文化遺産について,締約国が自国内で目録を作成し,保護措置をとること,また,国際的な保護として,「人類の無形文化遺産代表的な一覧表」や「緊急に保護する必要がある無形文化遺産の一覧表」の作成,国際的な援助などが定められている。

                               文化庁HPより

 世界的文化価値の高い文化、自然遺産を消滅や衰退から国連のユネスコの提唱により各国で保護していきましょうということで、この世界資産の保護の条約に加盟した国が登録の対象となる。

 

 つまり 

 伝統として守ってきた人の生活様式に根差した行動を守りましょうということだ。

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 日本での無形文化遺産

 

 では日本ではどのような伝統が、ユネスコ文化遺産に登録されているのか。いかにリストがあるので参照されたい。

 

代表一覧表に登録された我が国の無形文化遺産

2023年1月現在

能楽

2008年

人形浄瑠璃文楽

2008年

歌舞伎(伝統的な演技演出様式によって上演される歌舞伎)

2008年

雅楽

2009年

小千谷縮・越後上布

2009年

奥能登のあえのこと

2009年

早池峰神楽

2009年

秋保の田植踊

2009年

チャッキラコ

2009年

大日堂舞楽

2009年

題目立

2009年

アイヌ古式舞踊

2009年

組踊

2010年

結城紬

2010年

壬生の花田植

2011年

佐陀神能

2011年

那智の田楽

2012年

和食;日本人の伝統的な食文化

「和食」のユネスコ無形文化遺産登録について(農林水産省)

2013年

和紙:日本の手漉和紙技術

(構成/石州半紙,本美濃紙,細川紙

2014年

山・鉾・屋台行事

2016年

来訪神:仮面・仮装の神々

2018年

伝統建築工匠の技:木造建造物を受け継ぐための伝統技術

(提案概要)(73.9KB)

概要パンフ日本語版(19.5MB)/英語版(19.3MB)

2020年

風流踊

(提案概要)(159KB)

文化庁HPより このリストから登録されているものに関しては、

 大体このような分類ができると思う。古来より日本で継続して行われてきた行事や技術、祭りが登録されてい この中で異色と言えば和食であろう。和食は伝統及び表現と社会的習慣に該当するのかもしれない。 登録の趣旨に関しては、南北に長く、四季が明確な日本には多様で豊かな自然があり、そこで生まれた食文化もまた、これに寄り添うように育まれてきました。このような、「自然を尊ぶ」という日本人の気質に基づいた「食」に関する「習わし」を、「和食;日本人の伝統的な食文化」と題して、ユネスコ無形文化遺産に登録されました。 選ばれた理由には次のような点がある。 多様で こうあるように日本人の習慣に根付いた伝統と習わしであるとしている。

  •  多様で新鮮な食材とその持ち味の尊重 

 四季のある日本には様々な新鮮な食材に恵まれており、その食材を生かす技術も発達維している。

  • 健康的な食生活を支える栄養バランス 

 一汁三菜は理想的な栄養バランス。動物性資質の少ない食事は長寿や肥満防止に役立っている。

  • 自然の美しさや四季の移ろいの表現 

 四季折々の季節感を表現することも特徴の一つです。季節に合った調度品と器を用意することもします。

  •  正月などの年中行事とのかかわり 

 日本の食文化は年中行事と密接なかかわって育まれました。自然の恵みである「食」を分け合い、食の時間を共にすることで、家族や地域の絆を深めてきました。この特徴により、日本独自の食文化が独自性や希少性の観点から世界に認められたと考えます。 

 温泉は世界遺産に登録されるのか

  温泉が世界文化遺産に登録されるには、登録された前例から見てみるのがわかりやすいでしょう。参考となりえるのはやはり、和食の登録です 提案の分類としては 「自然の尊重」という日本人の精神を体現した,食に関する社会的慣習として提案。 とあります。

「自然の尊重」という日本人の精神を体現した、温泉に関する社会的習慣として提案。一文字を入れ替えれば、そのまま使えそうです。そう仮定するなら先にあげた四項目も同じように当てはめることが、可能です。であるならば、次に問題となるのが、食文化の内容である4つの定義ですが、これを温泉に当てはめると、

  • 多様な泉質、源泉を誇る日本。

  • 日本人の健康に大きくかかわってきた湯治文化を擁する日本

  • 四季を通じて楽しめる温泉の入浴方法

  • 年中行事や縁起としての温泉

 このように分類できるかもしれません。日本には、酸性、アルカリ、中性と泉質の異なる温泉化各地にあり、入り方、効能も違いがあります。古くから傷や病気を治してきた温泉には薬効効果があり、各地に湯治という概念があり人々に親しまれてきた。そして四季折々の風景を眺めたり、夏場だけ、冬だけ、川の中にある、海の中にあると一年を通じて楽しめる。また、各地域に温泉祭りがあり、また無病息災を願って入湯することも各地で行われている。これを鑑みると温泉も日本独自の文化としての登録は要件を満たすものに見えなくもない。

 群馬県で足を引っ張る草津温泉

  群馬の誇る日本一の名湯。草津温泉にはかつて時間湯と呼ばれる湯治に特化した入浴法がありました。これは高温の湯に3分つかることを一日3回ないし4回を繰り返すことでお湯の恩恵を得て、病をいやす方法でした。近年、黒岩町長の政策変更によりこの独自文化である時間湯は、形だけを維持した観光用のお湯となり、実際の効能や入浴法は完全になくなりました。

これは、ユネスコ無形文化遺産の登録の目玉を書くこととなりました。

 

 温泉文化の要件である。日本人の健康を支える湯治としての意義を失い。さらには温泉祭りにおける祭祀においても、時間湯は宗教染みているという考えから、地元の白根神社を祭った神棚も廃止してしまいました。

 こうなると草津では、温泉における独自文化は湯もみだけということになりますが、草津の湯もみも時間湯から発祥したものであり、湯治の湯もみの伝統は、消されたままです。

 このあたりが実はユネスコ無形遺産の目玉だとなるはずだったのですが、温泉地の長が自ら、登録に反対するような政治的決断をしてしまったことが、ここへきて最大のネックとなってしまいました。

 文化的価値をアピールすることが登録への近道

草津温泉については、湯量も豊富で、泉質がよいことで有名ですが、こと文化的な側面での整備というのがおろそかになっている印象があります。観光客が多い分どの宿に誘客するか、どのくらい儲けられるかと経済面ばかりが優先されて、歴史や文化を大切に保存するという意識が低いように感じます。ユネスコの温泉文化の登録に関しても登録すれば、どのくらい誘客できるかとの観点でしかものを考えない意識が見て取れます。

本当にユネスコの登録を目指すならば、温泉の本質的な良さを保持しつつ、日本としての独自文化を残す政策をとっていかなければと思います。