箱根の隠れ家、天山湯治郷

 箱根湯本の温泉施設 

 

 日本は火山の国とも言っていい島国であるが、地震や噴火という災害はあるけれど、全国各地には温泉が湧くという恩恵がある。

 そのなかで日本人は、古来より病気の治癒、予防、健康の増進、そして余暇を過ごすリクリエーションとして温泉を利用してきた。その中でも湯治は、その地域特性によってさまざまに発展してきた。

 今回紹介する箱根の天山湯治郷は、箱根の温泉文化、歴史を加味しながら、独自のポリシーをもって運営をしている温泉施設である。

 ゆったりと静かに休日を過ごし、疲れをいやすことにフォーカスして、湯治にくるお客がどのようにすれば満足をしていただけるのかを考えた場所である。くつろぎに来るものであれば、それを邪魔しない限り誰でも受け入れるということで、タトゥーを入れている人も一人であれば拒まない。ひとりひとりのお客を尊重し、もてなすことがどのような形で行っているのかをひとつご紹介して行く。

 

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全景

  

 箱根の道はどこも狭いし、急である。車がすれ違うにしても気を付けなければいけないほどだ。箱根湯元にしても細い道が入り組んだ先に大小の旅館が並んでいる。とくに川沿いのみちは細く長く続いている。

だが、それがなかなかよい。

 多少不便でも通りにくくてもその土地を形作る特色が、なんだか気分を高揚させる。細い道を通った先の川沿いに下る道を入ると開けた施設にたどり着く。そこが今回の目的地の湯治郷だ。

 すべてが便利で行き届いているでは面白みは減じてしまうかもしれない。旅人は仮初の客であるからこのように言えるのかもしれないが、楽しむということは多少の不便があってもよいように思う。

 

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 源泉かけ流しの湯

 

 お風呂は基本的に露天風呂と檜風呂に分かれるそれぞれ別料金なので好きなほうを選択するとよいが、より開放感を求めるなら露天風呂に行くのが良いかと思う。特に晴れた日はそらの蒼と日差しとお湯の暖かさでとてもリラックスした気分になれる。大小さまざまな形の露天風呂があるので好きな場所でゆったりとくつろげるところがやはりよい。

 

 湯治郷で湧く温泉の泉質はナトリウム塩化物泉とアルカリ性単純泉である。あたりは柔らかで浴槽の湯につかると優しく包み込まれる感覚がある。

 湯量豊富(毎分347リットル)で65℃を超える温度があるそうだ。この自然の恩恵を最大限に引き出し、かつ損なわないように提供することにこの施設ならではの工夫をしているという。

 たとえば、加水せず熱交換機により温度を下げ、浄化槽の有益なバクテリアを殺さず、自然にも配慮をしているため塩素を一切使わず、高温スチームでの清掃を毎日行っているそうだ。また界面活性剤も自然のダメージが大きいということから石鹸を使用しているとのこと。こうした物事に対しこの施設なりの正しさを見せるという姿勢が訪れる人にも伝わってくる。

 細かいことのようだがこだわりを持つということはこの施設全体の様々な部分で現れてくる。例えば、従業員の接客態度も和やかにゆったりとした優しさがあり、備品や土産にしても品がある。休憩所も清潔でくつろげる作りになっている等、すべてが統一されている感じがする。

 

 

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 心地よい日差しが差し込む露天風呂はとても良い気分にしてくれる。天山においては屋根をかけてはいるが基本的には露天のつくりである。山の新鮮な空気と柔らかな日差しが心地よく時間を忘れてゆったりと浸れる空間となっている。

 お湯は熱くもなく適度な温度が保たれている。とはいえ44℃を超える湯もある。しかし、あたりが柔らかいのが本物の温泉であり、

 実際には熱さをそれほど感じさせないのである。また男性用の露天にはサウナも設置されていて小さな祠のような暗い空間に胡坐をかいて座る形で入る。暗くて狭いので怖い方はだめだろうが、面白い作りで入るのは楽しい。

 

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 森に囲まれた中で気持ちが落ち着く

 

 

 もう一つのこだわり、タトゥーの問題。

 

昨今増え続ける外国人旅行者のなかにも、タトゥーを入れているお客さんが大勢います。また、日本においても昔の刺青からファッションとして入れるという若者もいることから、入浴施設、温泉旅館などがタトゥーをどう考えるかが問題となっております。従来の入浴拒否では対応しきれずなにか明確な基準や意図がなければいけない時代になりました。

暴力団排除の流れから警察がお願いという形で拒否をしてくれというあり、それに従ってなんとなく禁止してきたという場所もあり、対応は各施設によりバラバラです。

では、湯治郷ではどのような対応をしているのか、

ここではひとりで入るお客なら受け入れる方針になっている。複数で来るとほかのお客さんに威圧を与える可能性がある。一人や家族とならお客として迎え入れるということだ。

実際に入浴すると、男湯には多くのタトゥーを入れた入浴者がいた。しかし、誰一人、騒いだり、威圧する態度を取ったりすることはない。むしろゆったりと静かにみな黙々と入っている。

これはタトゥーを入れていない入湯客にも言えることである。

みな落ち着いた気分で悠々とそして和やかに入浴している。

 

 それはどこから来るのかといえば、この施設から通して来られた方に最大限のくつろぎを提供しますという姿勢からくると考える。この湯治郷のお湯へのこだわり、環境に対する態度、従業員の対応など一貫したもてなしの気持ちがここに訪れる人への心に伝わるからそれが、たとえ子供でも騒ぐことがないのである。

 これは箱根という土地柄と文化、歴史にも関係していると思う。古くからの交通の要所であり、大勢の往来するお客をとおして培われた伝統のような気がしてならない。そう一朝一夕にはできないことのような気がする。

 

 

 温泉を求めて訪れる客の目的は現代においても様々である。一概に観光とは限らない。仕事であったり、療養であったり、研修や研究だったり、今ではブログや動画撮影などの目的もあるかもしれない。それでも訪れた人はその土地の文化と歴史に触れて感動を呼び動かすものである。

 だから温泉は地域に中核になるし、その土地にとって大事な財産となるであろう。またこの使い方をそれぞれの歴史に沿って使われてこそ訪れた人の心の琴線に触れるのではないだろうか。

 

 箱根の天山湯治郷はそんな成功例のひとつであると思う。

 

 

tenzan.jp