日本一複雑な、草津温泉使用条例をわかりやすく解説します。

 その経済のパイの大きさから、他の群馬県ローカル地域とは一線を画す群馬県草津町。今回のお題は草津温泉使用条例です。

 

 このブログで覚えられること。

  • 草津の温泉条例が理解できる。
  • 草津の温泉の現状が理解できる。
  • 町の権力構造が理解できる。

 

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日本一複雑な草津の温泉使用条例

日本は言わずと知れた温泉大国。全国で温泉が湧く珍しい国です。そして、その管理を決めるのは地方自治体であり、その決まり事が温泉条例なのです。

温泉条例の骨子はおよそ、

 目的、権限、使用許可、使用量、使用料金

で構成されており、どこも似通ったものです。

 

 しかし、日本一を謳う草津温泉は一味違います。何が他と違うのかと言えば特徴的な部分が3つあります。

 

  1. 温泉の分担金がバカ高い。
  2. 町民と外部の個人、法人に明確な差がある。
  3. 町長の権限が超強い。

この3つが挙げられると思います。そしてこれば草津温泉使用条例を複雑にしている要因でもあります。

 

条例の全文をご覧になりたい方はこちらを参照してください。

https://www.town.kusatsu.gunma.jp/www/reiki/reiki_honbun/e247RG00000263.html


 

草津の温泉条例の特徴は

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えこだんさんによる写真ACからの写真

 

  引用許可と町長の権限

まず、温泉を使用できる人を見ていきましょう。

すべて町長が許可を与えます。そして、旅館業者。寮、従業員宿舎。公共団体及び施設。リゾートマンション。本町に大きく貢献した者。

これらが浴用目的のみで許可が降ります。

 

また、町長が許可しないこともあります。

この条例違反者、必要ないと町長が認めるとき、希望の源泉、量が確保できないとき、第三者に被害を与えるとき、観光的資源価値を損傷するとき。これが町長権限でできます。もちろん議会の承認は必要ですが。

観光的資源価値を損傷は曖昧な表現ですが、この条例の冒頭部分で、

 

この条例は、本町が所有し、又は管理する温泉(以下「本町温泉」という。)を保護し、その濫用を防止し、もつてその利用の適正化を図るとともに、その源泉地域の観光資源的性格を保全することを目的とする。

 

としているので、温泉の観光資源というものの保全がつまり、温泉の保全が重要ということがよくわかります。

例えば、温泉を引いたら他の温泉が出なくなる。湯量が減るなんて事態が想定される場合には許可は出ません。複雑に絡み合って地下に流れている温泉なので実質新規で温泉を引くのは相当困難といっても良いでしょう。この観光資源的性格というのも言葉を返せば、現在の引用以外は引いてくれるなと行っていると思われます。

 

また、町長は、温泉引用の許可、取り消し、町職員による立入検査の指示、違反者の罰金の指示とその過料の金額設定。そして3年毎の更新手続きの裁量権を持っています。

 

  温泉引用・譲渡の分担金

 

次に特徴的なのが権利を取得する際に払う分担金です。

この温泉配当は、温泉給湯分担金という形で権利が売買されます。

そして、町民(3年経過住民、つまり住民登録をして3年経過した者が晴れて町民となる)と外部の人間では、この分担金の額が違います。

 

 町民  30万

 外部者 90万

更にこれに許可湯量を掛けて、消費税を加えたものが分担金となる。

許可湯量の計算方法はこちら、

 

  許可湯量の算出方法 浴槽表面積×係数×(浴槽温度-浴室温度)÷(給湯温度-浴槽温度)÷60=許可湯量(l/分)       ※係数=50  浴槽温度=43℃  浴室温度=10℃ 給湯温度=52

 

例えば、内径が幅3m×3mの深さ50cmの浴槽があったとすると、表面積は15立方メートルとなる。それにこの計算式を当てはめると

許可湯量は約45.83となり、

これに町民価格をかけると、1375万

外部の人間なら約4125万

これに消費税をかけると それぞれ1512.5万、4537.5万となります。

これは他の地域の温泉権利と比べるとダントツで高額です。それだけ温泉の価値が高いのが草津です。

また温泉給湯の譲渡に関しても、町民は先の許可湯量に10万円を掛けて消費税をプラスした額。部外者は50万円を掛けて消費税をプラスした額と、こちらは5倍の開きがあります。

 

  法人に関する規定

また、法人に対しても、この草津温泉のルールが適用される。法人の役員の5分の3が草津の住民である会社は30万の方が適用される。

外部から参入してきた企業でも、経緯を抑えたいなら役員を草津の町民にすればよい。かりに既存のホテルを買収しても、役員として現地の人間を残しておけば安く済ませることもできます。

法人から個人へ、個人から法人への移譲も可能です。これも上記の価格規定が反映されます。

 

 以前、草津の大東館がマイステイツという外部の会社が買収したのですが、その権利譲渡金は1億5千万だったという話があります。そのくらい高額で権利は売買されるのです。

 

 条例が意味するもの

他の地域ではここまで細かく規定した温泉条例はなかなかありません。また箱根などはやはり権利は高額ですが、草津と比べると大したことはありません。

では何故このような条例ができたのか?

コロナの影響前はインバウンドのお客も巻き込み、草津の入り込み客は320万人を達成したと言われています。

その知名度は全国に知られ観光客が絶えない地域です。人が集まればその分観光収入が増えて経済圏も大きくなります。

しかし、経済の拡大は温泉引用を求める需要も増大させ、リゾートマンション開発や新規旅館の建設などで供給に不安が出始め、温泉保護の機運が高まり、規制の方向に向かいました。

また、その際に町民と他所の地域の人に差を付けて外部の資本が入りづらくなるような仕組みを作りました。

また、入ってくれば町には分担金が入り、引用許可によって湯畑周辺への土地はなるべく外部には売らず町民の持ち回りとし、町周辺地域のみの許可とすることでいいとこ取りできるシステムができました。

 これが草津の温泉条例です。 

 条例のメリット・デメリット

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月舟さんによる写真ACからの写真



この条例の優れている点は、町の経済活動を保護するという点です。地元の経済圏を確保して町民が利益を確保できる後押しをしています。もちろんこれは経営者目線でのことですが。

また、過度な開発を抑えて温泉の保全がなされたという点でも一定の効果はあったと思います。膨大な湯量を誇ると行っても、湯量の多くは万代鉱というかなり酸性度の高い草津温泉では質のレベルが低いとされる湯ですので、他の源泉は大切にしたい。温泉を規制すれば旅館の増減をコントロールできるので一石二鳥です。

また需要があるのでひつの旅館が潰れても、買い取って新たにオープンできるという強みもありました。このコロナまでは。

 

デメリットという点では、大きな資本を投入してくる会社には関係ないということです。資本力があれば規制もクリアしてしまう可能性があります。常に高レベルの需要が逆に大手の企業だけを招くことになるでしょう。そしてその対となるのが、地元の小規模旅館が売りたい場合、外部の買い手が見つからない可能性があるという点です。若手で意欲のある人も資本力がなければ参入は難しいでしょう。

 

近年草津も高齢化が進み人口減少が止まりません。以前のように町民で持ち回りをするのも難しくなってきています。雇用体型が不安定な旅館・ホテル等の従業員のなり手も少なくなる状況も拍車を掛けている原因になっています。

 

 まとめ

 町としては、温泉を規制しつつ莫大な利益の見込めるこの条例は願ったり叶ったりだっと想像できます。さらに町民の規定を入れることで保護貿易のような自分たちの利益を確保しやすい状況を作り出しました。自分たちの利益とは歴代の町長や議員はホテル・旅館の有力者でしたから官民一体となった政治的防御機構だったのです。

 しかし、述べたように、人口減少から旅館の廃業も増えて大手資本の流入もあり、徐々に草津の町も変化してきています。コロナの影響で客足が減ればさらに廃業する旅館も増えるでしょう。そうなると町の形骸化が進み、経済は更に落ち込みます。税収は減り、住民サーピスは削られ、大手だけが潤う寂れた町になってしまう可能性はあります。

草津の保護機能として働いてきたこの温泉条例ですが、時代の変化から何かしら変化が見られるかも知れません。